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セカンドバージン...咲き遅れたシンデレラ
セカンドバージン...咲き遅れたシンデレラ
Autor: 琉球狸

第1話。 いつものBAR、いつもの夜

Autor: 琉球狸
last update Fecha de publicación: 2026-07-21 12:43:01

金曜日の夜、白石美奈子は仕事を終えると、

いつものように駅前の小さなBAR「Lumière」の扉を押した。

「マスター、お疲れさま」

カウンターの奥で glass を磨いていたマスターが、顔を上げて微笑む。

「美奈子さん、いらっしゃい。

今日も一杯目はモスコミュールで?」

「うん、お願い」

美奈子は四十四歳。

娘はもう高校二年生で、最近は「お母さん、今日は友達の家に泊まる」と言っては、美奈子の帰りを気にしなくなった。

シングルマザーとして十五年、がむしゃらに働いてきた。

営業事務の仕事は決して華やかではないけれど、コツコツと積み重ねてきた日々には確かな誇りがあった。

けれど、疲れは溜まる。

特に月末の今日は、上司の理不尽な小言に耐え、部下のミスをフォローし、家に帰れば娘の反抗期にも付き合う。

そんな一日の締めくくりに、美奈子にはこのBARでの一杯と、あるお楽しみが欠かせなかった。

「マスター、今日もあれ、流してもらえる?」

「もちろん。美奈子さんのリクエストは絶対だからね」

マスターは笑いながら、カウンターの端に置かれた小さなモニターを操作した。

画面に映し出されたのは、美奈子が十年来ファンを続けている国民的ダンスユニット「Sky beat」のミュージックビデオだった。

七人のメンバーが息の合ったダンスを繰り広げる中、美奈子の視線は自然と一人のメンバーに吸い寄せられる。

碧(あお)。

甘さと切なさが同居する歌声、そしてキレのあるダンス。

テレビで見るときは涼しい表情なのに、ライブ映像ではふとした瞬間に見せる少年のような笑顔。美奈子は彼のそんなギャップに、いつからか心を掴まれていた。

「美奈子さん、今日も熱心に見てるねぇ」

隣の常連客がからかうように言う。

「うるさいわね、乙女心をバカにしないでよ」

美奈子は笑いながらグラスを傾けた。

娘の前では見せない、少女のような表情。

ここでは誰に気兼ねすることもなく、好きなものを好きだと言える。

それがどれだけ救いになっていたか、美奈子自身もよくわかっていた。

ミュージックビデオが二周目に入った頃、美奈子はふと、背後に人の気配を感じた。

入り口の扉のベルが鳴る。

「いらっしゃいませ」

「ひとりだけど大丈夫ですか?」

マスターのいつものやり取りが聞こえる。

「マスター!僕らの曲、流してくれてるんですね!応援ありがとうございます」

聞き覚えのある声だった。でも、まさか。

美奈子がゆっくりと振り返ると――

そこには、画面の中にいるはずの碧が、まるで当たり前のように美奈子のすぐ隣の席に

腰を下ろしていた。

一瞬、時が止まったような感覚があった。

「え……」

声にならない声が漏れる。近くで見る碧は、

画面越しに見るよりもずっと生々しく、けれど確かに同じ人だった。

柔らかそうな髪、意外と高い鼻筋、そして何よりもテレビでは伝わらない、独特の甘い香り。

「あ、すみません、驚かせちゃいましたか?」

碧はいたずらっぽく笑って、美奈子の反応を楽しむように首を傾げた。

「え、あ、あの、本物……ですよね?」

「はい、本物です(笑)。今日、近くでライブのリハがあって。終わってからスタッフに『あの店のマスター、僕らのこと流してくれてるらしいですよ』って聞いて、寄らせてもらったんです」

美奈子は頭が真っ白になった。

十年間、画面越しに見つめ続けてきた人が、今、目の前にいる。

しかも自分はまさに、その本人が映るミュージックビデオを熱心に見つめていたところだったのだ。

「や、やだ、恥ずかしい……」

顔が一気に熱くなる。

碧はそんな美奈子の様子を見て、

くすっと笑った。

「いや、めちゃくちゃ嬉しいですよ。こんな風に、僕らの曲を楽しそうに見てくれてる人がいるって」

その笑顔は、テレビで見るどんな笑顔よりも眩しく、美奈子の心臓は落ち着かない音を立て始めていた。

慌てて席を立とうとした、その瞬間――

「わっ、ごめんなさい!」

美奈子の肘が触れて、手元にあったカクテルグラスが傾き、その中身が碧のシャツにかかってしまった。

「あ……」

一気に血の気が引く。

よりによって、こんな大失態を。

「ご、ごめんなさい、本当にごめんなさい!すぐ拭くもの……」

テンパる美奈子に対して、碧はまったく動じることなく、むしろ愉快そうに笑った。

「大丈夫、大丈夫です。全然気にしないでください」

「でも、シャツが……」

「いいですよ。その代わり――」

碧は少し悪戯っぽい目で美奈子を見つめた。

「よかったら、僕が奢るんで、一緒に飲みませんか?」

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